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京極夏彦■陰摩羅鬼の瑕 [書]

京極夏彦■陰摩羅鬼の瑕

京極夏彦■8 陰摩羅鬼の瑕●講談社ノベルズ.jpg


この話、正直読んでいる間なぜかザラついた気持ちになった。文章ではなく、ある登場人物の言葉に。

序章に小説家・関口巽と由良昂允との対話で始まります。
由良家は元々貧乏公家から明治の華族令公布の際にかなり厳しかった叙爵内規の特例となり、昂允の祖父は伯爵となった。華族制度廃止された後は没落というのがよくあるパターンだと思う。確かに一握りの商才や生活能力のある旧華族も居る。このシリーズの登場人物榎木津家がそうだ。榎木津の父は趣味が高じて一財産を築いた人物だ。しかし由良家は違った。昂允の祖父・公篤は一部の間で有名な儒学者。だが、49年の生涯のうち一度も金を稼ぐ事をせず、資産全部を売って、その上親戚中に借金をしまくり、白樺湖の畔にとんでもないスケールの西洋建築の由良邸を建てた。父・行房は博物学者。榎木津の父・幹麿が参加している博物倶楽部の前身の東亜博物同好会の会員。この行房ももちろん、稼ぎがない。ないが、本来なら没落への道をたどりそうなだが、妻・早紀江、昂允の母の実家・間宮家が元々素封家で、間宮家はその財を元に事業も成功したが、色々な理由で係累が絶え、全て由良家に嫁いだ昂允の母が相続した。その相続した資産で、借金を返した。返したが生活力のない行房の将来を心配した親戚が財産管理と運用の為の奉賛会を作っている。なので裕福である。その裕福な家系に生まれた昂允は心臓疾患があり、成人するまでこの館から出たことがなかった。
由良邸はただの洋館ではなかった。世間では“鳥の館”と呼ばれていた。理由は、昂允の父・行房が由良邸に剥製職人を住まわせ、鳥の剥製を作らせ、邸内を埋め尽くしていた。取り敢えず由良邸に入るとどこもかしこも鳥の剥製だらけの状態だった。部屋ごとにも鳥の剥製は置かれていた。そのような状態の邸内で外出も出来ず書物だけで学んだ昂允。
この昂允が5度目の結婚の予定していた。なぜ5度目の結婚かというと、過去昂允は結婚の度に初夜の次の日に花嫁が何者かに殺されていた。早朝の僅かな時間の間に窒息で。それも花嫁は抵抗した様子もない。最初の事件は23年も前なので死因はどこまで正確かは不明とはいえ、その後も結婚の度に毎回、花嫁は殺された。そういう事があり、探偵・榎木津に依頼があったのだ。あったのだが、目的地に到着する前の宿で榎木津は高熱を出し、目が見えなくなってしまった。目の不自由になった榎木津を介助するのは本来ならば、探偵助手・益田の役目だが、益田は世間一般が思うであろう探偵仕事で手が離せない為、白羽の矢が関口立ってしまった。関口は身体的介助だけだと思い、榎木津の宿に向かった。そして、由良邸に着いてしまった。関口の思惑では目の見えない探偵は役立たずでお役御免になるだろうと思っていたのだが、なぜか邸内に迎え入れられてしまった。
昂允は関口巽の小説の読者だったのだ。そして、関口は昂允と対面し、ある質問を受けた。

「貴方にとって生きて居ることと云うのはどのような意味を持つのです―」

初対面の相手に、それも対面恐怖症の鬱病を何度も経験している関口にこの質問です。関口はこの対面で不安が増長し、頭の中に不協和音が響いた。伯爵には自我、人間、個人とかそうした使い勝手の良い言葉は通じなかった。そして、関口は

「あなたの―伯爵の仰る、なくなってしまうことと云うのは、一般に云うところの死ぬと云う意味と同じだと考えて宜しいのですか」

関口はその時伯爵が一瞬訝しさを瞳に宿した―ように見えた。そして、

“この人の論旨には瑕がある”

そして関口は凡ての真相に至った。

この上の文面、本書のまま引用しています。ここが一番ザワつく所です。ここでザワついた後はある程度落ち着いて読めます。でも、由良昂允が出ている所は、今迄出ているこのシリーズの中で一番関口と共鳴するというか、心がザラつきます。そうそう、この話の中に私の大好きな作家が登場します。関口と対話します。話の中とはいえ、私もドキドキ興奮しました。登場人物が好きな作家と対話しているだけで興奮している私も単純ですが、これがあるので、また再読できる。
物語自体はすごく悲しい話です。剥製に囲まれているという設定もすごい効果だと思います。これから『陰摩羅鬼の瑕』を読もうという方は、物語の中に入り込みたい方は、弦楽器の多いクラッシック音楽を聴きながら読んで下さい。反対に引き込まれて不安に陥りやすい方は出来るだけ明るい音楽を聴きながら読んで下さいね。

昨日9月23日にTVでV6の「愛なんだ2019」という番組が放映されました。それ、見ていたんですが、その中に群馬県の尾瀬高校が紹介されていました。その高校には自然環境科があり、そこの未来の自然環境の専門家の高校生を取材していた時、当然と言えば当然ですが、いたるところに剥製が置いてあり、思わずこの話を思い出していました。




陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず) (講談社ノベルス)

陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず) (講談社ノベルス)

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2003/08/09
  • メディア: 新書



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コメント 2

sknys

京極夏彦はどうかしちゃったのかと思いました。
ストーリが進展しないし、この結末で、この長さ?
‥‥中編を水増ししたような感じは否めません。
この長口舌が「京極堂」の魅力なのですが^^;

ちなみに「百鬼夜行」シリーズのベスト3は『絡新婦の理』
『魍魎の匣』と番外編の「五徳猫」。
『ポーの一族 ユニコーン』の28・29ページ目で、
「モーリョーの匣かよ!」とツッコミを入れちゃいました。
『鵺の碑』がお蔵入りになっているのは何故ですか?
by sknys (2019-10-02 12:00) 

華龍

●sknysさんこんにちは
モバサム41さんのコメント欄で見かける方ですね。
確かにこれは特に長広舌が目立ちますね。私も中々進展しないと思いながらその長広舌すら、無駄じゃないはず!と思い込んで読んでいました。
ポーの一族、エドガーがアランの残骸(?)をトランクに入れて持ち歩いている所ですね(ページ数は忘れていたので確認しました)私も「あ、持ち歩いている・・」って思い出していました。
『鵺の碑』、かなり前の大極宮HPに少しお知らせがありました。
http://www.osawa-office.co.jp/weekly_bn/364.html
次のタイトルも決まっているようなので作品自体は書き上がっているのかしら?
どこから出版されるかはわかりませんが、楽しみです。
by 華龍 (2019-10-05 14:27) 

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