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笹間良彦■図説 日本未確認生物事典 [書]

笹間良彦■図説 日本未確認生物事典

先日このような本をみつけ、買ってみました。

笹間良彦■図説 日本未確認生物辞典●角川ソフィア文庫.jpg


読む前に笹間良彦さんってどんな方だろうか?
と思い、wikiってみました。→https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%B9%E9%96%93%E8%89%AF%E5%BD%A6
日本の歴史家、武具研究家、文学博士のようです。

内容はほぼタイトルと表紙でわかると思います。目次の分類は
●擬人的妖怪編
●魚と亀の変化
●龍蛇類の変化
●獣類の変化
●鳥類の変化
●湿性類の変化
と分類されています。一つの項目に対し、色々な書物や図説などを比べリンクさせた上に、ご本人の冷静な分析まで入っており、大変面白いです。個人的にはこういう同じ物に対し色々な内容を色々な角度から見て比べリンクさせるのは私自身もすることですし、読んでいて楽しいです。この本を読みながら、この本とも比べて見ていました。

水木しげる■決定版 図説日本妖怪大全 2冊●講談社文庫.jpg

水木大先生の御本です。通勤に3冊持つのは重たいので、持って出かけているのは笹間先生の分だけですが、家に帰ってその日読んだ項目分を水木先生の本でもう一度見る。おかげで中々読み進まないです。楽しいですけど。ちなみに水木先生の決定版の方、京極本並みに分厚い文庫本です。

水木しげる■妖怪大全withショッカー.jpg


現在読んでいて面白いと思った項目を一つ紹介します。
【人魚】
半人半魚の妖魚で、これは世界的に伝説があるが、日本に於いては中国の伝承がサブリミナルに植えつけられ、しばしば目撃されて多くの話が伝えられている。

という文章で始まります。で、最初の図がこれです。

人魚■1●寺島良安 和漢三才図会-1.jpg

人魚 寺島良安著 『和漢三才図会』(国立国会図書館ウェブサイトより)

中々“東洋的”な人魚ですね。中国の『山海経』のなかでは
“形は鯰に似て四足あって首は嬰児の頭のようである。”
中山経では
“なまずににて四足あって鳴き声は小児のようである。今またなまずを呼んでテイ?(読み方不明?魚ヘンに帝)→鯢となり、鯢は山椒魚の事になる。

人魚■2●鯢 寺島良安 和漢三才図会-1.jpg

鯢 寺島良安著『和漢三才図会』(国立国会図書館ウェブサイトより)

鳴き声が小児のようで人魚と分類されているのですかねぇ。山椒魚はあまり知られていないので珍品とされていたようです。山椒魚といえば淡水?私のイメージでは人魚は海、海水のイメージです。と思って読み進めると、『洽聞記』に 
“海の人魚は中国の東の海中に棲んでいる。大きいのは二メートル近いものもあってまるで人のようである。眉・目・鼻・口・頭・手にいたるまで美しい女性のようであって、人体として備わっていない部分はない。皮膚は肉付きよく、白くてまるで玉を磨いたようであり、下半身は魚体で鱗が生えているが、それに五色の長さ五、六センチ程の毛が生えている。髪の毛はまるで馬の尾のように直やかで二メートル近く、そして成人した女子と全く同じような陰所を持っている・・・”
とイメージが近くなって、他の同様の記事が紹介されています。

人魚■3●竜宮羶鉢木-1.jpg

人魚 『竜宮羶鉢木』

こちらの図は日本の人魚ですかねぇ。日本髪を結っているようですね。
“中国の人魚の伝承は古い時代からあるが、人魚を婦人として扱う話が生まれるのは、西欧の人魚伝説の影響が多分にあるようである。”
『広東新語』に
“大風が吹いて海が大荒れの時海の怪物が現れることがある。髪をなびかせ赤い顔をして魚に乗ってくるが乗っている者も魚形である。これを人魚という。人魚の雄を海和尚といい、雌を海女という。・・・・”
あらま、魚に乗ってるの?単独のイメージだったわ。雄?海和尚って海坊主?と、思っていたら、これに対して
“この人魚は一般的イメージの人魚とは少し異なる。雄を海和尚というとあるところは日本の海坊主のようである。日本の海坊主は『天地或問診』に、海が荒れているときに出るといい、また真黒であるなどといい、船人はこれに逢うと不吉とするなど、人魚とは区別しているから、この『広東新語』の人魚は海坊主と混同されているようである。雌を海女としているのが人魚に当たるであろう。”

人魚■4●江戸時代の瓦版-1.jpg

人魚 江戸の瓦版(早稲田大学坪内博士記念演劇博物館蔵)

人魚■5●大槻玄沢 六物新志-1.jpg

人魚 大槻玄沢著『六物新志』(国立公文書館蔵)

江戸の瓦版の人魚は、角があるし、首から下が魚なので、鬼が魚の着ぐるみ着ているようですね。『六物新志』の人魚はどこの国で描かれたのでしょうね?四足だし、雄雌で神話の中の物語に出てきそう。そして西欧関係では、
“小アジア及びヨーロッパには、古代から半人半魚の神や半人半魚の妖魅の話が伝わっている。 たとえばカルデアの神オアネス(Oannes)またはダゴン(Dagon)は半人半魚の神でベスアオンという殿堂に住み、半日は陸上、半日は海の中に暮らすと伝えられており、アッシリア民族の信仰したエアも、ギリシャの海神トリトンも半人半魚の神である。このトリトンは人身魚尾であるが別に馬の前足を持っていて、よく法螺貝を吹くといわれている。これらは男の半人半魚である。 女性の人魚形で有名なのはサイレン(Sirens)で、この女神は初めは翼を持って空を翔んでいたが、ミューズと戦って海に落ちてから人魚の姿に変わったといわれる。“

人魚■6●街談文々集要-1.jpg

人魚 『街談文々集要』(国立公文書館蔵)

人魚■7●大槻玄沢 六物新志-1.jpg

人魚 大槻玄沢著『六物新志』(国立公文書館蔵)

“また人魚は水の精であるとの思想からウンディーネ伝説やメルジナ伝説があるが、これらは美しい女性で表現されているが、こうした伝説が何等かの形で中国に伝わり、海中に美しい人魚が棲むと考えられるようになり、人と交われる存在になっていったのであろう。”
人魚ひとつに、鯰から、山椒魚、海神トリトン、ウンディーネまでつながってます。
“このように人魚は美女形であるという思想は近世日本に伝わった故であろうか、近世の人魚の目撃談は殆ど、美しい女性の上半身を以て認識されている。それ以前の中世までの人魚は人に非ず、魚に非ず、という曖昧さで、果たして本当に人の形と同じであるかどうかもわからない表現である。恐らく古代中国に於いて山椒魚の頭がなまずに似ていて、なまずの頭が小さい小児の頭に似ていることから人魚と名付けた如く、ほんの一部が人間に似ていたから人に似た怪魚として把えていた程度であろうから、日本の中世頃までの人魚と、近世に誤認を含めて目撃された人魚とは本質的に異なるとみてよい。”

人魚■8●三橋家日記-1.jpg

人魚 『三橋家日記』(弘前市立弘前図書館蔵、写真提供 青森県立郷土館)
う~ん、この人魚は顔だけ人だけど角が有り、お寺の和尚さんが袈裟の代わりにかけてる絡子(禅宗の輪のついた前掛け)しているように見える。

そして水木大先生。

人魚■9●水木しげる  決定版 日本妖怪大全-1.jpg

こちらは『決定版 日本妖怪大全』より
水木先生の解説によると、
“口は猿のように出ていて、歯は魚のように小さく、鱗が金色に光、声はひばり笛のように静かな音であるという。”
妖怪大全に載っているくらいなので、図も妖怪にしか見えませんね。腕はあるが、鱗が見えるし、水掻きもありますね。耳はとがっているけど、角はありません。こちらでも海だけではなく淡水にも棲んでいると書いております。涙を流し、言葉を話さず、いい香りがし、肉の味がよく、長寿になる。との事。
そういや昔どこかで人魚の肉を食べると長生きするって読んだような・・・。

というように、別に人魚に興味があるわけではないのですが、面白かったので紹介してみました。
まだ全部読み切れていないのですが、人魚の項と龍の項が長く、目についたのですが、wikiで笹間先生の著書をみると、人魚と龍については別に著作があるようでした。
『人魚の系譜』五月書房、1999年
『図説・龍の歴史大事典』遊子館、2006年

妖怪好きの方は是非とも水木先生の本と比べながら読むと楽しいのでお薦めします。



図説 日本未確認生物事典 (角川ソフィア文庫)

図説 日本未確認生物事典 (角川ソフィア文庫)

  • 作者: 笹間 良彦
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/11/22
  • メディア: 文庫




決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様 (講談社文庫)

決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様 (講談社文庫)

  • 作者: 水木 しげる
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/02/14
  • メディア: 文庫




図説 日本妖怪大全 (講談社+α文庫)

図説 日本妖怪大全 (講談社+α文庫)

  • 作者: 水木 しげる
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1994/06/14
  • メディア: 文庫



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通りすがり

お尋ねしたいことがあるのですが、この本で「天狐」の尾の数は記載されているのでしょうか。

インターネット上で流布した
「尻尾は四本であるという」
という一次出典不明の説の出所を探しているのですが、よろしければご教示ください。
by 通りすがり (2024-01-27 18:33) 

華龍

■通りすがりさん、こんにちは。
上記の本、『日本未確認生物事典』確認しました。
“天孤”の項はありましたが、残念ながら尾の数は記載されていません。
こちらの本では“天孤”は江戸時代の狐の能力のランク付けで、野孤、気孤、空孤、天狐となっており、「気孤以上皆姿なし」と記されていました。
この本を見返したついでに、私の持っている本を何冊かみてみたのですが、“天孤”に関する項はこの本しかみつけられませんでした。(雑誌等は未確認です)
お役に立てず申し訳ございません。
by 華龍 (2024-01-28 14:47) 

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